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備忘録:国家総合職 教養区分の所感 2/2

 前回から時間が空いてしまったが、教養区分の所感について引き続き書いて見ようと思う。肝心の2次試験についてである。

 また、前回でも書いたがこれはあくまで2020年度試験終了時点でのものである。

 

(3)2次試験

a.総合論文

 さあ1次試験も合格したし、2次試験でまずは論文か、と思いきやそうではない。何のこっちゃと思われそうだが、実は総合論文試験が行われるのは1次試験と同日なのである。正確には、総合論文試験が午前中・1次試験が午後といった具合である。何とも面倒な話だが、仕方がない。

 この論文試験だが、まず目を奪われるのはその試験時間である。4時間。そう、4時間である。大学の理系試験であってもここまで長いのはそうあるまい。自分も時間をみただけで少し気圧されるような感覚を覚えた。しかしへこたれてはいけない。この制限時間は完全に見掛け倒しだ。人にもよるが、普通にやれば2時間半少しもあれば十分完成は可能だろう。

 内容をざっと概観していく。4時間で2問、文字数は変更がなければ1問あたりmax1792文字である。出題されるテーマは極めて多岐にわたるので、予想は不可能と言っても良いだろう。

 1問目は複数の資料(英語を含む)が提示され、それらをもとに政治学・または社会学よりの問いに対して答えるというものが主流のようだ。お察しの通り、課される問いは極めて抽象的である。自分の代での問題は「情報化が進む現代で、行政官はいかなる役割を果たすべきか」といったような具合だった。資料としては、マックスウェーバー美濃部達吉、そして確かハーバーマスの意見が書かれたような文章だった。ハーバーマス(読み違いでなければ)のものは全文英語であった。単語もちょっと難解なものが多いため、受験でリーディングに苦手意識があった方にとっては少し厳しいかもしれない。何やら堅苦しい印象を与える文章になっているが何のことはない、この試験で何らかの学問の基礎素養が問われていることはほとんどないだろう。問われているのはあくまで、「資料を踏まえた一貫した論理での議論の展開ができるか」という部分だと考えられる。もちろん知識で議論の裏付けができるのなら+@にはなるだろうが、議論の甘さや抜け落ちによる減点の方が懸念すべきだろう。

 2問目は資料などは少なく、特定の政策分野における施策を考えるような問である。去年は少し特殊な出題で、「SDGの中で日本にとって特に重要なものを2つ挙げ、その理由と施策をあげよ」という趣旨だった。資料がない分、この点に関しては元から知識があると有利になるのかもしれない。しかし限られた文字数の中で下手に知識のみを拡張しても、かえって逆効果になることもあるだろう。大切なのはあくまで、筋の通った構成で論をかけるか、というところだと思う。

 総合論文試験は差がつきにくいと言われている。確かに、10点満点*2で平均が12点弱で、飛び抜けた高得点も低得点も考えにくい。しかし恐ろしいのは、この試験の全体に占める配点が8/28、およそ3割もあるということだ。もれなく前試験の中で最大である。いくら差がつかないとは言っても、素点で1点差がついただけで総合点の計算の際にはそこそこ大きいものになっているのである。もっとも、対策しなければと言ってできるものではないので、自らの文章構成能力と論理力、本番での思考力に頼るしかない。恐ろしいものである。

 

b.企画提案試験

 ここからが2次試験の日程にて行われる試験である。点数換算後の総合論文を除けば、もっとも点差がつきやすいと言われている(らしい)だ。配点は5/28だが、悪い時はそれなりに悪い点数もつき、一方で満点近くも可能な試験だからである。

 まず大切なのは、この試験で大切なのは本番ではない。何を言っているんだという話だが、事実だと思う。試験形態は次のようだ。

1)2次試験の要項と同時に、ある省庁の白書のリンクが送られ、その一部分が試験範囲として指定される。

2)本番では、上記の内容と関連した政策課題が問いとして出され、2時間で小論文を書く。

3)自らの小論文を見ながら、この後の発表(後述)の準備を10min行う。

4)面接官2人の前で小論文のプレゼンを5min行い、その後20minディスカッションを行なって終了。

 このような形式である以上、相当の頭の切れと受け答えの力を持っているのでない限り、本番前に準備を重ねておくのが良いことは言うまでもない。(まあ、結局忙しかったりして満足に準備できないことが多いのだが)

 準備内容としては、

・予想される政策課題を考える 

・それぞれの予想問題に対し、論点を明らかにする

・各論点について深めていく(現行施策・海外事例など情報収集、自らで論理立て etc...)

と言ったところだろう。ちなみに、情報収集をするとどうしても既存の施策などを乗り越えるのが不可能なように思われたり、ネットや書籍の政策提案が最適解のように思えることがある。その場合、どうしてもそれらをそのまま引用したくなるのが人情というものだが、一度止まってじっくり自分の頭で考えることをお勧めしたい。なぜならば、たとえ小論文では誰かの借り物の意見で書けたとしても、ディスカッションでは間違いなく行き詰まるからだ。すでに存在するアイデアを出発点としてでも、それで本当にいいのか?他に視点はないか?と考えてゆくと、意外と新しい考え方が出てきたりする。それらをロジックに綺麗に組み込んでやれば、こっちのものである。

 

C.政策討議試験

 文字通り、ある政策テーマについて議論する試験である。民間就活でやるGDとは違い、なんらかの合意形成に至ることが重要である。これは試験官の方から実際にそう言われるので、重要視されていることは間違いない。以下のように進められる。

1)4ページぐらいの資料が配られ、最初にyes or no 形式の問いがある。その資料の内容も踏まえつつ(踏まえなくても良いほどに知識があるなら別だが)、自らの立場とその理由をA41枚にまとめる。これ全部で制限時間は20minなので、意外と時間はない。ここで書いたものはのちに皆に共有されるので、書き終わってないなんて事態になったら苦しい。スピード感が最優先である。

2)意見記入済みのA4紙が回収され、6人(と言われつつ自分の年は5人だった。感染防止のためかもしれない。)ごとのグループに分けられ別室に通される。

3)メンバー全員のレジュメ(A4紙のことをそう呼ぼう)を数分間、確か3minチェックする時間が与えられたのち、1人2minずつ自らの立場をプレゼンする。

4)30min(自分の年は感染防止のため事前に30minと言われていたが、それ以前が45minだったらしい)のディスカッションを経て、合意形成に至ったり至らなかったりする。

5)普通は討議を終えての意見の変化を発表するのだが、感染防止のため私の代では省略された。

 

 よく言われることだが、この試験はかなりのメンバーガチャである。受験する方を悪くいうつもりはないが、万が一議論にならないような方がいた場合議論の崩壊リスクが跳ね上がる。当然試験官の方もそういった不確定要素は考慮してくれるだろうが、本来出来たはずの力が出せないという事実は変わらないだろう。というわけで、ここに全力をかけて対策するのも適切ではないだろう。

 自分の力で変えられるのは、直前の準備ではないかと思う。3)の段階で他のメンバーの立場が把握できるため、そこで予想される論点をあらかじめ抽出しておく。それによって対立点をどう相剋し合意形成に持っていくか、なんとなくの青写真が描けるかもしれない。もちろんそう思い通りにいかないものではあるが。

 

D.人物試験

 ここについてはほとんど書くことがない。民間就活で行われるような通常の面接となんら変わらない。いくつかさして重要ではないが違う点を挙げると、

1)事前に面接カードを記入する(これは重要かもしれない。)。いわゆるガクチカ(学業・課外活動・日常に分けられている)・志望動機などを列挙させられる。

2)面接官の方が3人と多い。

3)ひたすら1問1答を繰り返すような形である。全員がそうかはわからないが、聞く限りは。

ぐらいしか思いつかない。面接カード以外に準備があるとすれば、民間就活の面接を受けてみることぐらいだろうか。

 

(4)全体の所感・思うところ

 ずいぶん長くなってしまったが、教養区分の概観はこんな感じである。全体的に、国家公務員として必要になる資質や適正を測っているのだろうと推測できる。その意味では理にかなった試験と言えるのかもしれない。あのような1次試験で10倍にまで絞られるのは正直納得がいかないが。

 また、「教養区分」というタイトルから見ると、これはいわゆる専門性とは対比的なものとも言える。官僚の相対的低学歴(マスター以上が少ない)がアカデミア初め各所で指摘されているが、この試験区分はそれらに真っ向から対立しているように思われる。私個人としては、院卒としての専門性(研究内容やスキルなど)を測る選考がもっとあった方が良いと思うのだが、如何だろうか。現在のローテーション的キャリアを見直す方が先決なのかもしれない。

 

 何度も繰り返しになって恐縮だが、ここに書いたものが2021年度以降の試験のなんらかを保証するものでは一切ない。それらの詳細については、公式(人事院)からの発表を待ちたい。